医療的ケア児親子をとりまく環境

医療的ケア児とは

周産期先進医療の発達により、日本は500gで産まれても命が助かる「乳児死亡率が世界最低レベルの国」です。
一方で、胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器といった医療的ケアやデバイスと共に生きる障害児『医療的ケア児』は、国内で約18,000人と、ここ10年で2倍に増えています。
医療的ケア児の多くは数ヶ月から1年ほどでNICUから退院し、在宅医療に移行します。
医療的ケア児を育児する親御さんのうち母親のほとんどが仕事を辞め、24時間つきっきりで子どもの介護にあたっている現状があります。

医療的ケア児と、その家族を取り巻く社会の環境には、いまだ多くの問題がありますが、そもそも、医療的ケアというものがどういったものかよく知られていないのが現状です。

医療的ケア児って、
どんな子ども?

医療的ケア児とはその名の通り、医療的ケアを必要とする子どものことです。ではその医療的ケアとはなんでしょうか。
具体的な医療的ケアの例としては、以下のようなものが挙げられます。

(1)経管栄養:食事のためのチューブを胃に通す
嚥下(飲み込む)機能の障害などにより、口から食べ物を食べられない場合に、お腹に穴を開けたり、鼻からチューブを通すなどして、胃に直接食事(栄養剤等)を入れる処置です。

(2)気管切開:呼吸のための器具を喉に取り付ける
疾患などが原因で口や鼻がふさがってしまう症状がある場合、喉に穴を開け、カニューレ(通気の管)を通して空気の通り道を確保する処置です。

この他にも、様々なケアの種類がありますが、共通しているのは、何らかの医療デバイスによって身体の機能を補っている状態であるということです。

医療的ケア児が
生まれる割合は
年々高まっています

こういった医療的ケアを必要とする子どもは、2015年の時点で、全国で約1万7千人。
この数は増加傾向にあり、10年前と比べると約2倍になっています。

(単位:人)

一方で、2018年に生まれた子どもの数は約91万人と3年連続で100万人を下回り、生まれる子どもの数は減り続けています。
生まれる子どもが減っている一方で、医療的ケア児は増えている。このことは、生まれる子どもにおける医療的ケア児の割合が増えているということを意味します。
これはなぜでしょうか? その理由は、日本の新生児医療技術の向上にあります。
医療技術が向上したことで、出生時に疾患や障害があり、これまでであれば命を落としていた赤ちゃんを救うことができるようになりました。

その医療処置の結果として、生きるために医療的デバイスを必要とする子ども、すなわち医療的ケア児が増えてきているのです。

医療的ケア児は
「新しいカテゴリー」
の障害児

医療技術の向上等を背景として新たに生まれるようになった医療的ケア児は、過去にはない障害のカテゴリーです。
もともと日本における障害児の分類は「大島分類」というものが使われており、身体をコントロールする力(座位がとれる、立てる等)と、知的能力(IQ)がどの程度あるかという2つの軸によって、障害レベルが判定されていました。

大島分類の図。この図の1, 2, 3, 4に当てはまる場合、「重症心身障害児」という重い障害の分類とされる。
この分類により、子どもの障害の程度が決められ、それに応じた行政の支援を受けられる、というのが現在の障害児者支援の制度です。
しかしこの大島分類は約45年前に作られたもので、新しい存在である医療的ケア児は考慮されていません。
例えば、知的な遅れがなく自分で歩くこともできるが、経管栄養のチューブがついている医療的ケア児は、この分類では「障害がない」ということになってしまいます。
このように医療的ケア児は、既存の障害児者支援の法制度の枠組みに入ることができず、国や自治体の支援を受けることができなかったのです。

保育・療育を受けられない
医療的ケア児とその家族

では具体的に医療的ケア児とその家族に降りかかる問題とは何でしょうか。
多くの場合、医療的ケア児は普通の認可保育所には通えません。なぜなら、食事を胃に注入したり、呼吸器に酸素を送ったりといった医療的ケアを行う担当が保育所にいないからです。
そのため、親が仕事を辞め、24時間子どもにつきっきりにならざるを得ないというケースが非常に多くなっています。

親が就労できないことは、経済的な困窮につながり、また身体的・精神的な負担の大きさから、両親の離婚など、家庭環境が悪化するケースも少なくありません。
また、障害のある子どもの発達を促す療育についても、医療的ケア児の場合、施設に看護師など医療従事者が必要となり、受け入れが難しくなってしまいます。
保育園にも、療育施設にも通うことが難しい。医療的ケア児は、法制度のセーフティネットからこぼれ落ちた存在だったのです。

医療的ケア児の
養育者の状況

出典:東京大学家族看護学分野 上別府研究室「医療的ケアを要する児童生徒の保護者のレスパイトとQOL(生活の質)に関する調査」

医療的ケア児の主たる養育者の状況について

(回答者675名)

9割以上の家庭で、医療的ケア児の母親が介護を主に担当。主たる養育者である母親の約7割は就業しておらず、医療的ケアを独りで担っているケースも10.9%存在。暮らし向きが「大変・やや苦しい」と回答した人は42.0%にのぼります。

主たる養育者

父親3.3%、母親96.7%

養育者の平均年齢

43.6歳(範囲: 26~59歳)

養育者の
平均睡眠時間

5.4時間(範囲: 2~8時間)

養育者の就業状況

就業なし69.6%、フルタイム6.9%、パート18.3%、自営業5.2%

養育者の暮らし向き

大変・やや苦しい42.0%、普通42.2%、やや・大変ゆとりがある15.8%

医療的ケアの実施者が
家族内で他にいない

10.9%(範囲: 26~59歳)

医療的ケアを要する児童生徒の保護者のQOL

(身体的・精神的・社会的)

医療的ケアを要する保護者の「身体的・精神的・社会的健康度」はいずれも国民標準値(50点)に比べて有意に低く、「社会的健康度」が特に低くなっていました。
社会的健康度の低さは、仕事や家事などの普段の活動をするときに問題を感じたり、友人や親戚等との付き合いが妨げられているように感じることを示しています。

N=675
*統計的な有意差あり(t検定でp<0.05)

※QOL(生活の質)について
今回の調査では、保護者の健康に関連したQOLについて、身体的(活力、疲労、痛み等)・精神的(集中力、落ち込み等)・社会的健康(家庭内や仕事上の問題、人付き合い等)の3つの側面を測定する一般的な成人用調査尺度を用いました。スコアが高いほど健康度が高いことを示します。

出典:東京大学家族看護学分野 上別府研究室「医療的ケアを要する児童生徒の保護者のレスパイトとQOL(生活の質)に関する調査」

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