大学生と考える、医療的ケア児の暮らしと私たちにできること
こんにちは!医療的ケアシッター ナンシー事務局です。
6月下旬、医療的ケアシッター ナンシー(以下ナンシー)では、文教大学人間科学部人間科学科 宮地さつき先生の授業にお伺いし、医療的ケア児・家族を取り巻く現状についての講義を行いました。
講義には15名ほどのゼミ生のみなさんが参加し、ナンシー事務局スタッフの大津留が医療的ケア児を取り巻く社会背景や、医療的ケア児を育てる家族が置かれている状況や暮らしを支えるための社会制度について、そしてナンシーの取り組みについてお話しました。
冒頭、「医療的ケア児」を聞いたことはありますか?という問いかけをしたところ、クラスの半分以上の方の手が上がり、さすがは福祉を学んでいる学生さんたち!
知り合いの方のお子さんが医療的ケア児だったことで知ったという人や、関心があって施設に見学に行ったこともあるという人もいました。
医療的ケア児とその家族の暮らし
前半の講義では、この10年で医療の発展に伴って助かる命が増えている一方で、病院を退院した後の支援が十分ではなく、医療的ケア児を育てていく中で家族に負担がかかりやすいことについて触れました。
グループワークでは、医療的ケア児を育てる家庭の1日のスケジュールのイメージを紹介したあと、グループに分かれてディスカッションしてもらいました。
昼夜問わずケアが必要な生活を想像し、
「気が休められる時間が無いね」
「全然寝られてなくて、家族が体調を崩すんじゃないか」
「共働きができないんじゃないかな」
「訪問看護って、こんなにも時間が短いのか・・」
「ケアにかかる経済的な負担もどんな感じなんだろう」
と様々な声が挙がっていました。また、
「両親がBさん(医療的ケア児)にかかりっきりで、妹さんとBさんの関係が悪くなっちゃわないかな」
ときょうだい児を気に掛ける方もいました。
どのような福祉制度が使えるのだろう?
障害児家族を支えるためにどのような制度が利用できるのかと考えてみる際に、例えば訪問看護は複数の事業者と契約できるが、同日には使えないという制約があり、 それゆえ家族にとって非常に限られた時間になってしまうことについて触れました。
ナンシーではケアを担っている家族がお子さんから離れて、ほっとひとりで一息つける時間も持ってもらうため、福祉制度を上手く組み合わせて3時間の訪問を実現しています。
そうした活動の中で、
「医療的ケアに対応してくれるのできょうだい児と二人で出かけられるようになった」
「はじめてコーヒーを飲むことができた」
などの感想が届いていることも紹介しました。
在宅生活で使える福祉制度は多くの場合、高齢者や成人された障害者の利用が想定されていることが多いです。医療的ケア児が増えていても、どうしてもこどもたちを支える制度の整備が追いついていない状況があります。しかしそれで諦めて終わるのではなく、制度の成り立ちを踏まえながら活用できる部分を組み合わせることで困っている家庭を支えることもできます。
これから社会福祉の現場に出ていくみなさんに、そうした社会資源の見方などについてもお伝えしました。
「どうしたら医療的ケア児を含めてさまざまな障害がある人が暮らしやすい社会にできるか」を考えるグループワークでは、
「こういう状況に置かれている子がいるということをみんなが知ることが大事。自分たちはいま福祉を学んでいるから知っているけど、専門的に学んでいるひとだけではなくて、一般のひとみんなが知ることが大事じゃないかな」
「雪が降った、桜が咲いたなど、障害があっても季節を外に出て感じられるようになったらいい。そのためには、だれでも気軽に支援を使える社会にしたいし、支援する側に医療的ケア児の知識を持っている人が増えたら連携がスムーズになりそう」
「医療的ケア児本人の意志でいろいろ決められたらいい。自分で意思を出せるようにするにはどんなサポートがあればいいかな」
などみなさん、活発に意見を交換されていました。
講義後の振り返りアンケートでは、このような感想が届いていました。
「医療的ケア児という言葉は聞いたことは何度もありましたが本人やその家族がどのような生活やケアを行っているか、家族以外にどのような支援者がいるかなど初めて知ることばかりでした。
家族が医療的ケア児を子育てする負担軽減を目的とした法律があるということも初めて知りました。制度があってもそれを知らなかったり利用にまで繋げられず、家族に多くの負担がかかり孤立してしまうという状況に陥るケースなどもあるのではないかと講義を受けて感じました。
今ある制度を適切に、支援を必要とする医療的ケア児やその家族に提供できるように社会全体で医療的ケア児に対する理解や知る環境を作ることが私たちにできることではないかと思いました。医療的なケアが必要だから保育園や学校に通うことが難しいなど、本来当たり前にあるはずの様々な選択肢が失われないよう、本人や家族に対する支援はなにか、今回講義で学んだことを踏まえて我々ができることについて今後も考えていきたいと強く感じました。」
フローレンスの障害児支援の取り組みも、最初はひとりのお母さんの”医療的ケアのあるこどもを預かってもらえるところがない”という声からみんなで考えて形にしてきました。これから社会に出て働き手となっていく学生さんひとりひとりが、社会を作っていく一員としてこの日、学んだことをこれからの生活や働く中で思い出して波及させていってほしいと願っています。
医療的ケア児支援法が成立し、医療や福祉で直接関わる人だけではなく、社会全体で医療的ケア児とその家族の暮らしについて考えていく必要があります。フローレンスがこれまで培ってきた知見や経験を社会に伝えていく役割を果たしていくために、このような講義活動も併せて行っていきたいと思います。
ぜひお声がけください!