【6年がかりの提言実現】医療的ケア児の居場所増へ!障害児施設における医療的ケア児用の基本報酬が新設!

2月4日に厚生労働省から公表された「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定案」。この中に、初めて医療的ケア児用の基本報酬の新設が盛り込まれました!

医療的ケア児を預かる施設を適切に評価し、医療的ケア児家庭の居場所を増やすことにつながる、大きな一歩です。

実は、今回の報酬改定に至るまでには、フローレンス及び全国医療的ケア児者支援協議会、そして官民・党・省庁の垣根を越えた人々との協働による、6年もの長い道のりがありました。

医療的ケア児の居場所を増やせ――提言活動のあゆみ

たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子ども、「医療的ケア児」は、医療の進歩などを背景にここ10年で約2倍に増え、現在全国に約2万人いるといわれています。しかしながら、そうしたお子さんをお預かりする施設は極度に不足しています。なぜでしょうか。

施設で医療的ケア児を預かるためには、ケアに対応する看護師の手厚い配置や環境整備などが必要になります。

しかし、制度上お預かりに対して支払われる報酬設定が必要なコストを賄うには到底足りず、施設を運営する事業者は経営が非常に苦しい状況が続きました。

また、そのような状況で新たな事業の担い手も増えず、結果として医療的ケア児の居場所がいっこうに増えない状況が生まれていました。

この状況を打開すべく、2015年に「永田町子ども未来会議」が立ち上がります。医療的ケア児者への支援が極度に不足する状況を改善するために結成された、官民・党・省庁の垣根を越える大きな会議体です。フローレンスの駒崎が事務局長を務める、全国医療的ケア児者支援協議会もこれに参画しました。

そして、医療的ケア児を子育てする家庭が福祉サービスをきちんと利用できる新たな仕組みが必要だと訴え、「医療的ケア児を預かるために必要なコストを考慮した、医療的ケア児専用の基本報酬の新設」を提言してきました。

2016年、児童福祉法の改正で、初めて「医療的ケア児」という言葉が法律に盛り込まれ、自治体に支援への努力義務が定められました。しかしながら、まだまだ状況は改善しません。

2018年、3年に一度見直しがなされる「障害福祉サービス等報酬改定」のタイミングでは、この改訂が医療的ケア児等の状況を改善するものになるのではないかと大きな期待が寄せられ、フローレンスでも提言活動をさかんに行いました。

しかしながら、改訂の内容は実態に即したものとは言えず、制度の使いづらさ(看護職員加算の非常に高い適用ハードル)や医療的ケア児を受け入れる施設への財政的なインセンティブが無いために、残念ながら医療的ケア児の受け入れ施設増にはつながりませんでした。

こうした試行錯誤の道のりから3年がたち、再び訪れたのが、今回の「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定」です。

昨年から、永田町子ども未来会議でも「医療的ケア児用の基本報酬の新設」に向けた議論がさかんに行われ、その声が盛り込まれた新報酬がついに設定されたのです。

今回の報酬改定のポイント(医療的ケア児関連)

今回の報酬改定のキーワードは、「動ける医療的ケア児」

今まで、障害児の分類は約半世紀前に作られた「大島分類」というものが使われており、身体をコントロールする力(座位がとれる、立てるなど)と、知的能力がどの程度あるかという2つの軸によって、障害レベルが判定されてきました。

しかしこの分類だと、例えば、歩くことができて、健常児と同程度の知的能力を持っている場合でも、何らかの医療的ケアが必要な「動ける医療的ケア児」はどこにも分類することができません。

こうした事情もあって、これまで、「動ける医療的ケア児」1人当たりの基本報酬は、自閉症などの一般的な障害児と同じ830単位(9,296円/日)でした。
 ※1単位=11.2円(東京の場合)で計算

しかしながら、「動ける医療的ケア児」は、人工呼吸器を付けていれば、その管理が必要になります。また、動けるからこそ自分で人工呼吸器を外してしまうリスクもあり、見守りは必須です。当然、人工呼吸器などの医療機器を扱える看護師の配置も必要になります。

それにもかかわらず、一般的な障害児と同じ区分で扱われていたため、受け入れにかかるコストと報酬にズレが生じていたのです。

◼ポイント①:医療的ケアのスコア見直しと新たな「見守りスコア」の設定

そこで、今回の報酬改定では、医療的ケアの各項目の「基本スコア」が見直されるとともに、「見守りスコア」が新たに設定されました。「動ける医療的ケア児」を見守る大変さをきちんと数値化しようという動きです。

厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(令和3年2月4日)p.12から抜粋 

これにより、例えば、人工呼吸器を付けて、胃ろうをしていて、人工呼吸器が外れてしまったら即時の対応を要するお子さんの場合、以下のとおり合計7点アップします。

《改定前》合計13点

 人工呼吸器(基本スコア):8点

 胃ろう(基本スコア):5点

《改定後》合計20点

 人工呼吸器(基本スコア):10点

 人工呼吸器(見守りスコア):2点

 胃ろう(基本スコア):8点

◼ポイント②:必要な看護師配置が可能な「医療的ケア児用基本報酬」の新設

このスコアが関係するのが、今回新設される医療的ケア児用の基本報酬です。ケアに必要な数の看護師を配置できるように考えられた額になりました。

前述のとおり、改定前、「動ける医療的ケア児」1人当たりの基本報酬は、一律830単位(9,296円/日)でしたが、改定後は以下のとおり大幅にアップすることなります。

 ・15点以下なら1,552単位(17,382円/日)《3:1》

 ・16~31点なら1,885単位(21,112円/日)《2:1》

 ・32点以上なら2,885単位(32,312円/日)《1:1》

※定員10人以下の施設(児童発達支援センター以外)の場合

※《》内は、この基本報酬を得るために必要な看護師配置 《看護師数:医ケア児数》

厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(令和3年2月4日)p.12から抜粋

例えば、上記の「人工呼吸器を付けて、胃ろうをしていて、人工呼吸器が外れてしまったら即時の対応が必要なお子さん」の場合、合計20点なので、基本報酬は9,296円/日から21,112円/日にアップします。

これで、必要な人数の看護師を配置すると経営難になってしまう問題の解決が期待されます。

さらに、少人数の医療的ケア児を預かる施設に対しては、特に採算が取りづらいことを鑑みて、このスコアによらず、預かりの人数や時間数に応じた「医療連携体制加算」が付くことになりました。

例えば、医療的ケア児を1人のみ、4時間以上預かる場合、改定前は基本報酬の830単位(9,296円/日)のみでしたが、改定後は基本報酬885単位+医療連携体制加算1,600単位 (合計27,832円/日)が支払われることになります。

これで、小さい施設を含め、多くの施設で医療的ケア児の受け入れが進むことが期待されます。

◼ポイント③:重症心身障害児施設の看護職員加配加算の要件緩和

重症心身障害児施設(重心施設)で、重症心身障害の医療的ケア児を預かる場合の看護職員加配加算の要件が緩和されました。改定前は、「基本スコア8点以上の医ケア児が5人以上」いることが要件でしたが、「その施設の全医ケア児の前年度1日当たりの合計スコアが40点以上」であればOKになりました。

例えば、5人定員の重心施設で、スコアが28点(人工呼吸器(12点)・気管切開(8点)・胃ろう(8点))の子が1日平均1.5人いれば、合計40点以上なので、看護職員加配加算が付きます。そして、その重心施設の医ケア児1人当たりの報酬は、基本報酬2,098単位+看護職員加配加算400単位(合計27,977円/日)となります。

居宅訪問型保育事業にも医療的ケア児報酬新設を

今回の報酬改定の結果、既存の障害児通所施設の財務状況は改善し、新規事業者も参入しやすくなりました。今回の改定が、医療的ケア児家庭の居場所増につながることを願っています。

永田町子ども未来会議に参画してくださる国会議員のみなさん、厚生労働省のみなさん、そして、一緒に声をあげ続けてくださった医療的ケア児家庭のみなさん、本当にありがとうございました。

一方、今後にむけた課題も残されています。2015年に開始された「子ども・子育て支援新制度」の地域型保育事業の1つである「居宅訪問型保育事業」で医療的ケア児をお預かりする場合は、一般的な障害児と同じ額の加算(42,770円/月)のままです。

障害児通所施設と同様に、居宅訪問型保育も、医療的ケア児のお預かりを適切に評価する報酬設定がないと、経営を続けることが難しくなるのは同じです。

フローレンスおよび全国医療的ケア児者支援協議会では、居宅訪問型保育事業においても医療的ケア児専用の基本報酬新設をめざし、引き続き提言活動を行ってまいります。


医療的ケアシッター ナンシーでは障害のあるお子さんに関わった経験のある看護師がご自宅に訪問し、お子さんの好きなことや伸ばしていきたいことに合わせた活動と医療的ケアを行います。
訪問している2〜3時間の間、ご家族は休息したり外出したりと、自由にお過ごしいただけます。

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