医療的ケア児受け入れをいち早くスタート。「千代田せいが保育園」先生方の思いとは?

医療的ケアシッターナンシーは、看護師による医療的ケア児や障害児向けのシッターサービスです。

普段はお子さんをご自宅でお預かりをしているのですが、医療的ケア児であるSちゃんの保育園内でのケアを担う取り組みを2022年4月から行いました。

この取り組みは2021年6月に医療的ケア児支援法が成立し、同年9月から施行されたことをきっかけに、「千代田せいが保育園」と共にスタートしました。私たちナンシーは、業務委託のパートナーです。

このような取り組みは保育園もナンシーも、さらには千代田区としても初めてということもあり、模索しながら前進させてきました。しかし、今後は医療的ケア児支援法の施行により、こういった取り組みを行う自治体や保育園・幼稚園は増えていくと考えられます。

そこで、千代田せいが保育園の園長先生と主任の小林先生に、この取り組みをスタートさせた背景や実際にSちゃんを預かって感じたことなどについてうかがいました。

(インタビューは7月に行われたものです)

医療的ケア児のSちゃん、お姉ちゃんが通う保育園へ

大好きなおやつタイムです♪

――まずは、千代田せいが保育園に通う医療的ケア児のSちゃんについて、どういった経緯で預かることになったか教えてください。

小林先生:Sちゃんは1歳児、呼吸器などを必要とする医療的ケア児です。週に2日、ナンシーの看護師さんとともに9時から16時まで園でお預かりしました。

そもそも、Sちゃんのお姉ちゃんが当園に通っており、ご家族からのお話もあって生まれたときからSちゃんのことを私たちは知っていました。もちろん医療的ケアが必要だということも聞いていて、園としてもSちゃんやご家族のことを気にかけていたんです。

親御さんも保育園の入園問題などについて悩んでいる様子でした。私たちはフォローしたいと考えつつ、デリケートな話題だったので、どう踏み込めばいいかと思っていました。そんなとき園長からSちゃんの保育について話があり、預かることになったんです。

園長先生:医療的ケア児支援法が施行されるということで千代田区から話があり、当園でも話し合った末、Sちゃんを受け入れることになりました。最終的な決定をするにあたって、他の先生方にも相談したのですが、すんなり「受け入れましょう!」と。私としては、そうスムーズには理解が得られないだろうなと思っていたので驚きでした。

とはいえ、受け入れるからには事故などがないようにしなければなりませんし、その辺は大きな課題だと感じていました。

小林先生:法律が変わったり、東京都保育士等キャリアアップ研修で医療的ケア児の話があったりしたこともあり、自分の中にも受け入れの下地ができつつありました。

そもそも、リスクが高すぎるなどの場合を除いて、親御さんの「子どもを保育園に預けたい」という思いに応えるのが保育士の仕事だと私は思っているんですね。だから、園長先生から今回の話を聞いたときに、「やりましょう」という答えになりました。

――その後、保育園からフローレンスに連絡をいただいて、ナンシーが取り組みに関わることになったんですよね。

園長先生:看護師を保育園で採用しなければならなかったのですが、医療的ケア児の対応ができる方をどうやって探せばいいのだろうと悩んでいました。そんな中、実際にSちゃんの在宅ケアをしている看護師さんに業務委託で保育園に来てもらうのはどうだろうという話になったんです。

家と保育園とで同じ看護師さんにみてもらえる仕組みができたのは、Sちゃんやご家族にとって心強いものになったのではないかと感じています。

保育園にSちゃんがいることは当たり前の風景に

Sちゃんのお手伝い係のみんなと遊んでいます

――実際にSちゃんが保育園に通うようになり、どんなふうに感じていらっしゃいますか。

小林先生:Sちゃんにとってはもちろん、他の子たちにとっても良いことなんだろうなと思っていました。多様性やダイバーシティが叫ばれる社会で、いろんな人と出会うことはきっと良いことなんだろうと。そして、実際にSちゃんが保育園に通うようになり、やっぱり良かったなと感じています。

人は障害の有無にかかわらず、誰かと関わりたいという思いを潜在的に持っています。保育園でのSちゃんの姿を見ていても、そういう思いがあるんだろうなと感じました。

先日、園の子どもたちとご家族とで屋形船に乗る行事があったんです。その際、Sちゃんのお母さんがぽろっと「家族で園の行事に出られてうれしかった」と感想を言われていたんですね。きっと、その言葉に収まらない深い思いがお母さんにもお父さんにもあるんだと思います。Sちゃんが保育園で生活するようになったことは、ご家族にとっても大きな意味があるのではないかなと感じました。

――周りの子どもたちにはどんな反応がありましたか。

小林先生:子どもには壁がないと感じます。例えば、Sちゃんの呼吸器を見て、「これは触っちゃいけないんだよね」とか「これをつけていないとSちゃんは苦しくなっちゃうんだ」とか、きちんと知っていてくれています。痰の吸引をするときも、喘息持ちで吸入をしている子が「(ケアが必要という意味で)同じだね!」とか。Sちゃんがいることは特別ではなく、生活の一部になっていきました。

とはいえ、こういった経験は今すぐ直接的に何らかの影響が見られるものではなく、これからの人生のどこかで活きてくるものなんだろうなと思いますね。

園長先生:子どもにとって一番大事な環境は、子どもだと思うんですよね。子ども同士の人間的なふれあいや非言語コミュニケーションを通して、感情が変わったり、興味が広がったり、また、心を通わせたりすることが重要だと感じています。

Sちゃんが保育園に通うようになったことで、Sちゃんや周りの子どもたちにどんな変化が起きたかなどの分かりやすい成果をつい重視しがちです。しかしそうではなく、ここではただ普通の「生活」があって、その中で共に時間を過ごすことに意味があるんだと思います。

保育園は大きな家族でありたいと私たちは常々思っています。発達がどうだとか、こんなことができるようになっただとかよりも、ここでSちゃんがみんなと過ごす時間が重要なんじゃないでしょうか。

クレープやさんごっこでクレープをお友達からもらいました!

前向きなナンシーの看護師とともに受け入れ体制を整備

――ナンシーの看護師とともに取り組む中で感じたことはありますか。

小林先生:最初に顔合わせがあった際、ナンシーの看護師の方々がこの取り組みに対して、すごく楽しみにしていて前向きだったんですよね。あれには間違いなく励まされました。

園長先生:それまでに感じていた不安が吹き飛ばされ、やれるかもしれないって思えましたよね。

小林先生:Sちゃんを保育園で受け入れるにあたって、在宅ケアを行ってきたノウハウやマニュアル、危機管理が整っていたナンシーさんと一緒にやったからこそできたと思っています。設備的な面からどうフォローすればよいのかすらも分かっていなかったので、「なるほど、こういうところにコンセントが必要なんだな」など学ぶところが多かったです。

結果として、環境整備や導線の確保なども非常にスムーズに、短時間で終わらせることができました。

――ありがとうございます。先生方の思いと私たちの思いがうまくマッチして、しっかりとご相談できたことも大きいと思います。また、保育園でも受け入れ前から子どもたちにSちゃんのお世話係の仕組みを作ったり、事前にSちゃんがどんな子なのか話をしていたりと、準備してくださったことの積み重ねによるものだったと思います。

小林先生:園の先生たちとも緊急時の対応や、Sちゃんがどんな疾患で、どんなケアが必要なのかを知るための研修会など行っていました。医療的ケア児が園で生活するにあたり、受け入れ側の現場の体制や心構えを整えることも大事だと考えていました。

園長先生:小林先生のように思いを持って進めていく人がいなければ、うまくいかなかった部分も大きいと思います。

小林先生:「これは大切なことだからみんなでやっていこうよ」という思いを強く持って、他の先生たちを先導していくことは、取り組みスタートの際に大事なことだったなと思います。もちろん園長先生もそうなのですが、現場レベルでもそういう“ぶれない”人がいなければ難しいかもと感じました。

朝の会ではみんなと一緒にお返事!

課題を解決しながら取り組みが広がっていってほしい

――今回の取り組みで感じている課題はありますか。

園長先生:まだ走り出したばかりの取り組みだったので、マニュアルやノウハウはまだありません。そういったものがあれば、他の園で取り組むハードルは下がるのではないかと思います。

また、人材の確保という点でも課題はあると思います。医療的ケア児をみられる看護師さんや保育士を見つけることは簡単ではないでしょう。

私たちは、在宅ケアの経験が豊富なナンシーの看護師さんたちと組めてよかったと感じていますし、看護師の確保にあたっては今回のように業務委託という方法を選ぶのもひとつの手段かもしれません。

課題はありますが、ひとまず医療的ケア児が集団の場で過ごせる新たな仕組みができたのは良いことだと思います。

小林先生:Sちゃんを預かれたのは、もともとお姉ちゃんが園に通っており、ご家族との信頼関係があったことも大きいですね。

医療的ケア児であるかないかにかかわらず、子どもには子どもとの場が必要ですし、Sちゃんに今そういった場を提供できていることは良かったと思います。課題を徐々に解決しながら、こういった取り組みが広がっていってくれるといいですね。

医療的ケア児の保育体制のさらなる拡充を

千代田せいが保育園では医療的ケア児や障害児であるかどうかにかかわらず、子ども同士が触れ合える環境が必要だという信念のもと、熱意を持って今回取り組んできました。

まだまだ課題はありますが、今回のインタビューで子どもたちのためにできることをやりたいという先生方の思いを改めて感じました。

今後は医療的ケア児支援法の施行を背景に、地域の保育園でお子さんを預かるケースも増えてくると予想されます。医療的ケア児の保育体制の拡充に向けて、支援を行うとともに、情報発信や研修などにも取り組んでいきます。


今回の記事では新たな取り組みとして、保育園での医療的ケアのサポートについてお伝えしましたが、普段は、看護師が医療的ケア児や障害児のご自宅に伺い、お預かりしています。

お子さん一人ひとりに合わせたケアや遊びを行っていますので、ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

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