千代田せいが保育園による医療的ケア児受け入れ。ママと看護師の思いとは?

医療的ケアシッター ナンシー(以下、ナンシー)は、看護師が医療的ケア児や障害児のご自宅に伺い、お預かりするシッターサービスです。

自宅以外のサポートについても、通学・通園中のケアなどご家庭の希望に応じて試行錯誤しながらトライアルしています。

ナンシーと認可保育園「千代田せいが保育園」の業務提携によって実現した、ナンシー看護師による保育園内での医療的ケア支援。2021年6月に医療的ケア児支援法が成立したのをきっかけに、2022年4月から7月にわたり実施されました。
(実際の保育園でのお預かりの様子や先生方の思いについては「医療的ケア児受け入れをいち早くスタート。「千代田せいが保育園」先生方の思いとは?」をお読みください)

今回は医療的ケアを受けながら保育園に通ったSちゃんの親御さん(以下、Aさん)と、ケアを行ったナンシーの看護師の二人に、入園が決まるまでの経緯やSちゃんの保育園での様子、これからの社会に対する希望や医療的ケア児を持つ保護者の方へのメッセージなどを話してもらいました。

「お姉ちゃんと同じ保育園に通わせてあげたい」

――今回の取り組みはナンシーだけでなく千代田せいが保育園や千代田区にとっても初めてのケースでしたが、Sちゃんを保育園に預けたいと思われた背景にはどのような思いがあったのでしょうか?

Aさん「ひとつには私の仕事のことがあります。いずれは復職したい、復職しないといけないと思っていて、その環境づくりのため保育園に預けられるかどうか千代田区の子ども支援課と相談していました。

あと千代田せいが保育園にはSちゃんのお姉ちゃんも通っていて、同じところに通わせたかったのも理由のひとつです。小学校に上がったらおそらく行き先が別々になってしまうので、お姉ちゃんにも「姉妹で一緒の保育園」という体験をさせてあげたいなと思っていました。」

――保育園に預けたいと思われたのはいつごろからですか?

Aさん「希望は最初から出していました。はじめから復職前提だったので…。ただ具体的にどの保育園に通わせるとか、保育園に預けるのではなく訪問型の保育にするかとか、いつ仕事に復帰するかとか、そういう細かいところまで最初から決めていたわけじゃないんです。

2度目に保育園入園の希望を出したときに入園が内定したのですが、呼吸器を付けた子が保育園に通った実績がそれまでなくて、本当に通えるのかな?短い時間しか預かってもらえないかな?私も一緒じゃないとダメかな?みたいな不安はありましたね。」

ナンシーナース「私も最初は『入園が内定した手前、保育園も受け入れる体で話を進めているのかな』と疑心暗鬼になっていました。保育園が受け入れに後ろ向きだったら少しでもいい方向に変えられるならレクチャーでもアドバイスでも、Sちゃんのプレゼンでもなんでもするつもりでいたんです。でも実は保育園の方もすごく前向きで(笑)。保育園からナンシーに、園でのSちゃんの医療的ケアをしてもらえないかと依頼があり、伺うことになりました。」

Aさん「お姉ちゃんが通っていたので保育園の園長先生もSちゃんのことをよく知っていて、気にかけてくれていたのが大きかったと思います。保育園が受け入れに向けて先に動いてくれたので千代田区も積極的だったのかなと。本当に環境に恵まれていました。」

――保育園では安全面にすごく気を遣ったと思うのですが、どんなことに気をつけて準備されましたか?

ナンシーナース「もともとSちゃんのご自宅でのケアをナンシーが担っていたので、保育園との特別なやりとりはなかったです。ただ、自宅と外でできるケアには細かい違いがあるので、その点には注意をしました。」

Aさん「ナンシーさんにはそれまでもおうちでSちゃんを見ていてもらったので信頼していました。また、保育園でも事前に園児にSちゃんを紹介する会を用意してくれて、私もzoomで参加させてもらったりして…。そういう配慮や準備のおかげで安心できました。」

ナンシーナース「子どもたちはやはり呼吸器に興味があり、チューブに少し触ってみたいとか、遊びに夢中になって機器を飛び越えてこようとしたりすることもありましたね。ただ、『ここに引っかかってしまうと危ないから離れていてね』など声かけをすると理解してくれました。保育園でもあらかじめ子どもたちに話してくれていたのが大きかったです。」

先生や他の子に囲まれて「家にいるより楽しそう」

――保育園でのSちゃんの生活はどんな感じでしたか?

Aさん&ナンシーナース「すごく楽しそうでした。」

Aさん「保育園での様子を毎日写真で共有してもらえるんですけど、みんなにかわいがってもらって、本人もとても楽しそうにしていました。家でナンシーさんといるときも楽しそうですけど(笑)。」

ナンシーナース「初日はみんなにもみくちゃにされたという感じでしたけど(笑)Sちゃんがどーんとしていて、みんなにプニプニされてもニコニコしていて、ああこれは大丈夫だなって思いました。家でお姉ちゃんにもみくちゃにされていたから免疫があったのかな?

あと喘息のある子が吸入の様子を見て『私もこれやったことがある』とか、他の子もSちゃんが聴診を受けているのを見て『私もこのあいだ病院に行ってやったよ』とか、共通項を探して『一緒だな』って思ってくれる子ばっかりで。異質なものみたいに排除しようとする子は1人もいなかったですね。

だからといってみんながSちゃんのために何かを我慢したりということもなくて、一緒に本を読んだり、おままごとにSちゃんを呼んだりして楽しんでいて。子どもたち同士でという雰囲気がとてもありがたかったですし、Sちゃんにとっても幸せなことでした。」

――保育園に預かってもらって良かったことはありますか?

Aさん「ご飯ですね。児童発達支援に通うときはお弁当なので、『家でのいつものご飯』からはみ出ることはありませんでした。でも保育園は給食なので、初めて食べるものとか、家で食べさせていなかったものが出てきて、実はそれが好きだったとか、それも食べられるんだ!とか、いろいろな発見ができました。」

ナンシーナース「私も給食体験出来たので食べながら、『Sちゃんはこの味が好きなんだ』『こういう形態だと噛みやすいんだ』ってわかったり、それをママに共有できたのが良かったですね。

あとSちゃんが集団の中で他の子をまねてみるとか、誰かを気にしたりする姿を初めて見ることができて、そういう集団の力を間近で見ることができたことも良かったと思います。」

Sちゃんを支えた「保育士・看護師のチームプレー」

――保育園の先生たちとの連携はどうでしたか?

ナンシーナース「先生たちも“Sちゃんウェルカム!”な感じでした。私がSちゃんのおむつを換えてちょっと外で手を洗ってきますねっていうときはすぐに駆け寄ってきて面倒を見てくれたり、他の子たちがSちゃんのところにわーっと来て危なかったらすぐに対策を考えてくれて、次に保育園に行ったら安全対策がとられていて感動しました。」

Aさん「保育園に預けることになった当初、Sちゃんはずっと違う月齢のお子さんの階で過ごすというイメージだったんです。せっかく保育園に行くから年の近い友達とも関わってもらえたらなとも思っていたのですが、結果的に安全に過ごす環境を整えるためにスタートとしてはそれでよかったなと思っています。」

ナンシーナース「そうですよね、行ってみて気づけることもたくさんありましたね。お昼ごはんの場所も変えてみたら、その近くにいいスペースもあって。試しにそこで少し過ごさせてもらっているとSちゃんもすごく楽しそうに動き回っていたんですよね。そんなSちゃんの様子を見ているうちに保育園の先生方も『ここで過ごせると楽しいかも。そのときSちゃんの安全にはどうやって配慮しようか』と一緒に考えてくれました。

Sちゃんの呼吸器やいろいろな荷物を持って階を移動するときにも保育園でサポートするスタッフを決めてくれたので、とても声をかけやすかったです。」

――素晴らしいチームプレーですね

ナンシーナース「本当に1人じゃできないことが多くて、でもみんながSちゃんの笑顔を見るために一緒に考えてくれたんです。みんなが同じ方向を見て進んでいけた感じで。Sちゃんにはそういうパワーがありましたね。」

「医療的ケア児支援」をみんなが利用できる社会に

――今回の取り組みを通して感じたことや、この記事を読む方へのメッセージはありますか?

Aさん「医療的ケア児の子育ては普通の子育てより大変で、だからその子をずっとかわいいって思い続けるのも現実問題として大変なところがあると思います。今回のように保育園に預かってもらって、そこで医療的ケアを受けられることになれば「親としての自分」と「私個人の世界」を両立できますよね。私がSちゃんのことを一度もしんどいと思わずにかわいがることができたのも、それがあったからだと思います。

Sちゃんが生まれてしばらくは「いつ仕事に復帰できるんだろう」という見通しが全然見えませんでした。周りも「医療ケア児が生まれたら仕事は辞めるものだ」みたいな空気だったんですが、今回はいろいろなご縁で仕事を続けられる環境をいただけました。今後はどの親御さんも望む選択ができるような社会になればいいなって思います。」

ナンシーナース「今回Sちゃんに対して保育園での支援も一緒にできたからこそ、Sちゃんの可能性をもっと広げることができたなと思います。同時に、お母さんができることも、看護師の仕事の幅も広がりました。それができたのはお母さんが保育園を希望してくださったこと、そして自治体や保育園の先生方の協力があってこそでした。今後同じような希望の声があったときに向けて、このような選択肢もあることを皆さんに知っていただけたら嬉しいです。

お母さんたちも日々大変だと思うのですが、保育園に通わせたい、お仕事を続けたいといった想いを、なんとか声に出して近くのどなたかに伝えてみてください。そのような声を知ることで、じゃあどうしましょうかとみんなで考えることができますから。」


今回は、ナンシーが普段から訪問していたご利用家庭の保育園への通園をサポートした事例をご紹介しました。お子さんと親御さんに伴走し、「やってみたい」を一緒に叶えることができたことをとても嬉しく思います。

医療的ケア児支援法の施行後、各自治体で医療的ケア児支援センターの設立など取り組みが進んでいる一方で、保育園や学校での受け入れについては現場での試行錯誤が続いています。

ナンシーはこれからもご利用家庭の声を聞き、関連団体と連携しながらできることを模索してチャレンジしていきたいと思います。


ナンシーでは看護師が医療的ケア児や障害児のご自宅に伺い、お預かりしています。

お子さん一人ひとりに合わせたケアや遊びを行っていますので、ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

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